東野圭吾といえば、誰もが名前を聞いたことのある小説家でしょう。
あまりに王道すぎるので、
読書を普段しない人に限って、東野圭吾の本が本棚に置いてある。
━━とからかわれることもあります。
確かに、難しい本や純文学を読むのが好きな人からすると、東野圭吾の小説は物足りないと感じるかもしれません。
とはいえ、東野圭吾の作品はどれも、驚くほど読みやすいです。
本を読んだことがほとんどない人の入門向けとして、これ以上に最適な作家はいないでしょう。
もちろん、東野圭吾の作品は名作ぞろいで映像化されているものも多いので、おもしろさは保証されています。
逆に言うと、東野圭吾のわかりやすい文章でさえ、ぜんぜん頭に入ってこない人はかなり頭が疲れているので休まれたほうがいいと思います。
では、東野圭吾のおすすめ作品を紹介していきます。
1.東野圭吾作品が電子書籍化されていない理由
東野圭吾作品はこれほどの人気作品にもかかわらず、基本的に電子書籍化されていません。
著者は、その理由をこう語っています。
東野圭吾さんが作品を電子書籍化しない理由。
確かにスマホの中に本が入ってしまうと、他の誘惑が多すぎて読書はそりゃ勝てなくなりますよね。 pic.twitter.com/aZTi6eXaAJ
— タロン@本読み (@shin_taron) May 23, 2021
(写真は『東野圭吾公式ガイド』より)
まあ、理由はわからなくはないですが、電子書籍がないと海外在住の日本人にとってはものすごく東野圭吾作品を読むハードルが上がっちゃうんですよね……。
とはいえ、最近は電子書籍化の波に押されたのか、一部の東野圭吾作品は電子書籍化されているようですが、
━━と思っておきましょう。
2.長編ランキング
①秘密
新海誠のアニメ『君の名は』は、人格の入れ替わり(私たち/僕たち入れ替わってるー!?)がテーマになっていましたが、その東野圭吾版が本書です。
死んだはずの妻の意識が娘に憑依している。
意識は妻だけど身体は娘なのだから、セックスなんてできない。
意識が入れ替わるという設定はSF小説ではそれほど珍しくありませんが、ラストのひねりは小説史上初めてなんじゃないですかね……。
映画タイタニックに、「女の心は深い海なのよ」というセリフがありましたが、娘の外見をした妻の意識が最後まで秘密を隠しているのかどうかわからず、秘密は彼女の心の深い海に隠されてしまうのです。
すべての女性は多かれ少なかれ役者だと思いますが、この妻ほど演技の上手い役者はいないでしょう。
文句なしに僕が一番好きな東野圭吾の小説です。読んで損はありません。
僕は読了後、衝撃のあまり数日間は何も考えられなくなりました。
②パラドックス13
日本時間3月13日13時13分13秒。ブラックホールの影響により、主人公たち数人を残して人類が一瞬で消えてしまった世界を描くSFサバイバル小説。
東野圭吾には珍しいどストレートのSF小説なのですが、東野圭吾ファンにはあまり響かなかったらしく、あまり有名な作品ではありませんが、僕は大好物。
人類消失後の世界なんて、おもしろいに決まってるじゃないですか。
運転手を失ってゆっくり動く自動車。環状線をノンストップでぐるぐると走り続ける電車。どこか遠くで墜落する飛行機。
やがて、送電がストップし、コンビニやスーパーの食品が腐り始める……。
巨大な大都市に人類が数人しかいないという状況は、なんとも末恐ろしいものです。
物語の後半で、「アダムとイヴ論争」が起こるのが読みどころです。
人類が数人しかいないという状況で子孫を残すには、女性に子供を産んでもらうしかない。
しかし、女性がどの男性にも身体を許したくないと言ったら?
その場合は、女性の自由意志を踏みにじって(半ばレイプのような形で)妊娠させるべきなのか。
それとも、「産まない」という女性の自由意志を尊重して、人類は滅びるに任せるべきなのでしょうか?
僕には答えは出せませんが、男性側と女性側でかなり意見が違ってきそうな論争です。
あなたもぜひ答えを考えながら読んでみてください。
③手紙
犯罪加害者が刑務所の中から自分の家族に書く手紙とは、どんなものか想像できますか?
さぞかし反省の情が綿々と書かれているのかと僕は思いましたが、著者が法務省に取材したところ、手紙には「当たり障りのない呑気な内容」が書かれているそうです。
実は刑務所の中からの手紙は全て検閲されるので、うっかり「早くシャバに出て女を抱きてえゼ」とか書いちゃうと、反省の気持ちゼロと判断されてしまうため、「今日は何を食べたか」などのつまらない日記みたいな手紙しか書けなくなるそうです。
ストーリーのキモは、
━━という点です。
加害者家族は「犯罪者の家族」とのレッテルを貼られることを何よりも恐れます。
本当は忘れたいのに、刑務所の中から犯罪者の家族だと一目で分かる手紙がたびたび送られてくるのだから、たまりません。
就職、結婚、人生のステージチェンジの節目に限って、刑務所から呑気な手紙が届き、なにも悪いことはしていないはずの犯罪者家族が破綻するのです。
家族が重大犯罪を犯すとどうなるのか。
あまりにも重いテーマですが、一読の価値ありです。
④変身
東野圭吾がふと、
もし右脳と左脳のどちらか半分だけが他人の脳になったら、一体どうなるんだろう?
━━という着想のもと、書かれた小説です。
損傷した主人公の右脳を別人のものと取り替えるという大手術が行われますが、主人公の性格がだんだん残忍なものに変貌していく……このジワジワと進む「変身」が読みどころです。
最初のうちは主人公本人でさえ気づかないような些細な性格の変化しか起こりませんが、主人公の恋人はその変化を敏感に察知します。
女性は小さな変化にも非常に敏感であって、他の誰も気づかないうちに主人公の危険を察知するという「炭鉱のカナリア」的な役割を果たしているのです。
「ラストシーンに救いがない」という意見がありましたが、僕はそうは思いません。
本来なら死んでいたはずの恋人にラストにあんなことをしてもらったのだから、救いはあるでしょう。
⑤天空の蜂
高速増殖原型炉「新陽」発電所(実在の高速増殖炉「もんじゅ」がモデル)がテロリストに狙われるというストーリー。
ポスト3.11以降は、原子力発電所について全国民が否応なしに考えさせられましたが、今はまた原発については、ほとんどの国民は忘れていますよね。
本書は1995年という早くから、原発の危険性を指摘していた「予言の書」です。
著者がストーリーを思いついてから本になるまで、原発のことを勉強し、5年くらいかかったそうです。
ちなみに映画『レッド・オクトーバーを追え!』をお手本にしたそうです。
原発という日本の暗部を描いた力作ですが、世間からは黙殺されたそうです。
やはり、テーマが原発ともなると、億単位のお金が動きますし、利害関係者もいろんな業界に散らばっていますから、出版社としても大きく宣伝できなかったのかもしれませんね。
しかし、どんな悲劇も喉元を過ぎれば忘れてしまうのが僕たちです。
本書を読んで、原発についてもう一度深く考えないといけませんね。
⑥さまよう刃
少年たちによって、一人娘を凌辱の果てに殺された父親が加害者に復讐するストーリー。
レイプされるシーンが真に迫りすぎていて、僕は読むのがかなりいやになったので、これから読む人は覚悟が必要です。
少年犯罪があると、「少年法は被害者を救うためにあるのか、加害者を救うためにあるのか」という議論が起こりますが、本書でも主人公の父親は同じような葛藤を抱きます。
一つ、妙なリアリティがあるなと感じたのは、
少年にレイプされた女の子がその時のことを「普通に悲しかった」と言いつつも、そんなことをした少年になぜついていくのかと聞かれて「優しくされたから」と答えるシーンですね。
「レイプされたのになんだそりゃ」と思いますが、奇妙な真実味があってゾッとしたシーンです。
⑦流星の絆
まだ幼かった3兄妹が両親に内緒でペルセウス流星群を見に行ったその日、両親を殺害されるという悲劇が起こるというストーリー。
その後、成長した3兄妹は犯人に復讐すべく計画を練るのですが、妹に心境の変化が……。
「最大の誤算は、妹の恋心だった」
という当時の単行本に書かれていたキャッチコピーを見て、即買いしたのを覚えてます。
両親を殺害された恨みの復讐劇なのですから、「重い」内容となるはずなのですが、ここまで読後感がさわやかなのはなぜでしょう。不思議です。
僕が好きなのは、夜空に光る流星群を見ながら、
「あてもなく飛ぶしかなくって、どこで燃え尽きるか分からない」流れ星に三兄妹の絆をたとえているシーンです。
流れ星のような爽快感を味わえるおすすめ小説です。
⑧パラレルワールド・ラブストーリー
当時、まだ会社員だった東野圭吾には好きな女性が2人いたそうです。
「不倫とか浮気ではなくて、 2つの体でそれぞれの女性と、全く別々の人生を歩めたらいいのになぁ」
━━という著者の妄想を具現化したストーリーです。
映画『マトリックス』が似たようなテーマですが、恋愛が大きな要素を占めているという点で本書は抜きん出ています。
僕としては、映画『バタフライ・エフェクト』を思い出しましたね。
「今の世界」と「ありえたはずの世界」を往復ジャンプする主人公などもそっくりです。
⑨仮面山荘殺人事件
山荘の中という密室空間に強盗たちが押し入ってきて……というストーリー。
途中まではよくある密室ものかなと思っていましたが、ラストのどんでん返しの破壊力がすごい。
「まさかそこまではひっくり返さないよな」という読者の予想を軽く超えてひっくり返されます。
ある意味、推理小説の中では「タブー」とされるほどのどんでん返しですが、わりと説得力を持っているのが東野圭吾の筆力のすごいところ。
「いや、でもさすがにこれはないわ」拒絶反応を示す読者もいそう。
僕は笑ってしまいましたけどね。
⑩白夜行
主人公の男女2人の子供の頃から大人までをずっと描いていくストーリー。
この小説がおもしろいのは、2人の内面描写が一切ないことです。
小説の中では2人が交わる部分は一切書かれていない。
なのに読者には2人がどこかで交差しており、悪事に手を染めている事は分かってしまうんですね。
小説といえば、登場人物の内面の葛藤が描かれるのがふつうですが、この小説にはそれがない。
これ、実際の僕たちの生活と似ていますよね。
好きな人であっても、本当の気持ちなんてほとんど語ってくれない。
僕たちは、好きな人の行動を観察するしかなく、小説のような心の声なんて聞こえてこないのです。
本書がリアリティがある(ありすぎる)のは、主人公2人の内面描写を描かずに、ひたすら「行動」のみを描くという手法が、読者からするとまるで監視カメラを見ているように思えるからかもしれません。
僕の好きなセリフは、
「あたしの上には太陽なんかなかった。いつも夜。でも暗くはなかった。太陽に代わるものがあったから」
『白夜行』のタイトルを暗示しているようで含蓄のあるセリフですよね。
⑪プラチナデータ
DNA解析によって捜査を行う特殊機関が登場する近未来?の日本を舞台に、DNA捜査システムの生みの親の研究者が殺されるというストーリー。
・犯罪と密接な関係があるとされる「MAOA」 と呼ばれる遺伝子
・脳に電気ショックを与えて快楽を得る「電トリ」という脳刺激装置
・人格交代を制御する「多人格出現制御剤」
━━など、理科系的なガジェット類が登場するのがおもしろいですが、これらのガジェット機器の説明で文章が少しうるさくなっているかも。
ラストのオチは、最近「上級国民/下級国民」と騒がれる社会の分断に重ねて読むこともできそうです。
⑫放課後
東野圭吾のデビュー作。
学校を舞台にした殺人事件がテーマです。
さすがにデビュー作であるだけに、文章がぎこちなく感じられるところがあります。
東野圭吾が東野圭吾になる前の小説と言えるでしょう。
正直、僕は昔に読んだので、細かくは覚えていないのですが、殺人の動機にぜんぜん納得できなかった記憶があります。
「そんなくだらんことで人を殺すか?」と思いましたが、最近は意味不明な動機の事件も珍しくないので、今思うとそんなにおかしくはないのかも。
⑬ナミヤ雑貨店の奇蹟
ナミヤ雑貨店(今は廃墟)に入ってドアを閉めると、過去のある時代にタイムスリップするというストーリー。
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だと人がタイムスリップしますが、本作ではタイムスリップするのは人ではなく手紙です。(ここがおもしろい)
現在を基準に、過去の人からのお悩み相談の手紙に回答するという構図が読んでいておもしろい。
たとえば、
「来年、神戸に引っ越そうかと思っています」という過去からの手紙があれば、「いや、来年は阪神淡路大震災が起こるからやめとけ」と言いたくなりますが、過去の人間がそんなことを信じるはずがないので、なんと返事をすればいいんだろう……。というジレンマがあるのです。
間違いなく、文句なしに楽しめる作品。
うまくまとまりすぎていて、物足りない人もいそうですけどね。
⑭容疑者Xの献身
有名すぎて敬遠したくなりますが、やはり名作です。
天才数学者が殺人の隠蔽工作に手を貸してしまうというストーリー。
主人公の数学者は論理的に考えるので、殺人が割に合わないことは理解しています。
そんな彼が殺人事件に手を貸すのは、合理的ではありません。
周囲の人間も「まさかあの天才数学者が関わっているわけはないだろう」と考えます。
しかし、数学者が計算にいれていなかったのは、「恋」だったわけです。
天才数学者は、「恋」という変数によって自分の心にどんな「バグ」が起こるかを計算していなかったことが原因で悲劇が起こるのです。
ちなみにストーリーに物理学はほとんど絡んでこないので、理系的な説明が苦手なひとでもストーリーにのめり込めます。
このへんの読みやすさが直木賞受賞の理由の一つでしょうね。
⑮祈りの幕が下りる時
加賀恭一郎シリーズのおそらく完結編です。
加賀恭一郎は東野圭吾の生み出した魅力的なキャラクターですが、本作で初めて彼の詳細な出生の秘密が明かされます。
やはり、東野圭吾は人の人生を絡めて社会の歪みを描くのがうまいですよね。
ミステリー作家として最強の能力を持っている気がします。
⑯夢幻花
黄色いアサガオは自然界に存在しないことをご存知でしょうか?。
しかし、江戸時代には黄色いアサガオが存在していたらしく、本作はそれを巡るストーリーです。
これだけ聞くと面白くなさそうですが、実は黄色いアサガオには幻覚作用があることがわかり、これが殺人事件に関わっていることが判明してから面白くなるので、それまでは我慢。
東野圭吾の小説に江戸時代の話が出てくるのは珍しいので、意外と面白かったです。
⑰分身
「自分にそっくりな見た目の女性がいる」ことに気づき、自分の出生の秘密を知っていくというストーリー。
本書では、外見が全く同じで内面だけが違う女性2人を書き分ける必要があり、著者はかなり苦労したとインタビューで語っています。
もともと、「女性を描くのは苦手だ」と語っている著者ですが、本書の女性2人の書き分けはかなりうまいと思います。
⑱時生
難病の息子が20年前の過去に戻って、父親の若い頃に出会うというタイムスリップ・ストーリーです。
「現在子供のいるお父さんは間違いなく泣ける」という感想をよく見ますが、子供どころか結婚もしていない僕からすると、「よーわからん」という印象。
子供ができてから読むと感想も変わってきそうですが。
ちなみに、本書では「グレゴリウス症候群」という難病が登場しますが、実はこれ、著者がでっちあげた架空の病気なので、要注意。
「グレゴリウス症候群」を実際にあると思った僕は、一度友達に語ってしまい、結果、デマ情報を拡散するという失態を犯したことがあるのは苦い思い出です。
3.最新作
①希望の糸
ヒジョ〜に恐ろしかった。
これはネタバレすると面白くなくなるタイプの小説なので、ネタバレは回避しますが、かなりおすすめです。
女性からすると、子供は必ず自分の身体を通して産むので、自分の知らないうちに自分の子供が産まれてたなんてことはないはず。
でも、体外受精が可能な現代ではそれが起こりうるのです。
女性にとっては、体外受精などが可能になったことで出産の可能性が広がったことは文句なしにいいことですが、自分の受精卵が世界のどこかで勝手に産まれているのだとしたら、それは恐ろしいですよね。
まあ、自分に害があるわけではないので、世界のどこかで自分の血の繋がった子供が産まれていても気にしないという女性もいるかもしれないけど……。
②人魚の眠る家
こちらも非常にショッキングなストーリー。
「脳死」がテーマとして登場しますが、「脳死=死亡」だとすると、
・医者が脳死の診断を下すと、病院のベッドに横たわっている人は死体になる。
・医者が脳死の診断を下さないと、病院のベッドに横たわっている人は、まだ生きている患者になる。
死体/患者の線引きがまだはっきりとしていない、というのが恐ろしいです。
③白鳥とコウモリ
少し微妙だったかも。
おもしろかったのですが、他の東野圭吾作品でも読んだような気がする既視感のあるストーリーでしたかね。
「光と影、昼と夜、まるで白鳥とコウモリが一緒に空を飛ぼうって話だ」
━━というタイトル回収のセリフがかなり効果的にハマっていたのはよかったです。
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