橘玲さんは、本名も素顔も公開されていない覆面作家です。
なんとなく怪しげな雰囲気なのですが、彼の著作の説得力はすごいです。
細かいことにもちゃんとエビデンスとして参考文献がのっているので、説得力が段違いなんですよ。
ただし、橘玲さんの著作は、基本的に、
ほとんどの場合、事実は不愉快なものですからね。
不愉快な気分になっても事実を知りたい人は、ぜひ読んでみてください。
おもしろさは僕が保証します。
では、橘玲さんの著作を難易度別に紹介していきましょう。
初心者向け
言ってはいけないー残酷すぎる真実ー
地上波では絶対に言えないような、不愉快な事実がてんこ盛り。最初はこれを読むのがおすすめ。
──などなど、公の場で言ってしまうと友人関係が壊れそうな、不愉快な事実が書かれています。
もちろん、これは著者の憶測ではなく、ちゃんとした化学的なデータに基づいて書かれています。
橘玲さんを読んだことない人は、まずは本書を読みましょう。
本書が楽しくないなら、たぶん橘玲さんの他の本はぜんぶ楽しめません。
もっと言ってはいけない
『言ってはいけない』が気に入ったのなら、本書も楽しく読めるはず。
──などなど、こちらも不愉快な事実が、科学的なデータに基づいて書かれています。
読んでると気分が悪くなってくる読書体験になるので、幸せでいたいなら、下手に読まないほうがいいかも……。
人生は攻略できる
進路相談の先生より確実に役に立つ本です。
僕がこの本から得た学びは、次の2つです。
──この2つは、今でもずーっと僕の考えの底に眠ってます。
非常に読みやすいので、高校生にもおすすめです。
上級国民/下級国民
読みやすいけど胸糞悪くなるので注意。
「上級国民」という言葉は、最近、よく使われるようになりましたね。
高い地位についている人が悪いことをしたのに捕まらない場合、「上級国民だから、免罪になったんだ!」とよく言われます。
その「上級国民」がどこから生まれたのか? 本書ではこの謎に迫っています。
ちなみに、著者はこんな恐ろしい未来予測をしています。
平成が「団塊の世代の雇用(正社員の既得権)を守る」ための30年だったとするならば、令和の前半は「団塊の世代の年金を守る」ための20年になる以外にありません。
結局のところ、団塊の世代は数が多いので、一人一票である限り、政治家は団塊の世代の言うことばっかり聞きます。
数で負けている若者世代に都合のいい政策なんて、政治家は作ってくれないのです。
女と男 なぜわかりあえないのか
誰もが興味のあるテーマなので読みやすい。
「男女平等だ!」といくら叫んだところで、男女に肉体的な差があるのはどうしようもない事実です。
ところで、男女の肉体で最も不平等なのはなんだと思いますか?
それはたぶん、「生理」でしょう。
個人差もありますが、生理は基本的に「毎月1回×平均5日×約42年=2500日」です。女性は人生のうち、合計2500日を体調不良のまま過ごすのです。
男性には生理がないわけですから、この2500日を体調不良で過ごすということはありません。
著者は本書で、
もはや男女は別の人生を歩んでいると考えてもいい。
──と書いていますが、まさにその通りだな、と思います。
「俺は男だからどうでもいい」と考える男性もいるかもしれまんが、世界人口の半数は女性なのですから、この問題は避けて通るには大きすぎる問題ですね。
2億円と専業主婦
ですが、経済的には事実なわけで、誰も反論できないといういわくつきの本。
日本では専業主婦に関する意見はタブーです。
女性誌やファッション雑誌は女性向けなので、専業主婦を批判するようなことはぜったいに書けないからです。
本書の結論は、とてもシンプルです。
なんといっても、大卒の女性が60歳まで働き続けたときの平均的な生涯賃金は(退職金を除いて)2億円なのだから。
夫の病気や転勤、離婚など、ちょっとしたきっかけで家計が行き詰まるリスクを専業主婦が抱えていることは間違いない。
あなたは本当に「2億円のお金持ちチケット」を、専業主婦になることで捨てるのですか?
もちろん、専業主婦が良いか悪いかという話ではありません。
専業主婦になると、本来、正社員の給料として得られたはずの「2億円」を失うことになるけど、それでもいいの?という話です。
もちろん、女性は読むべきですが、男性も読むべきです。
なぜなら、妻が専業主婦になるかどうかは、夫にとっても大事な問題だからです。
世間では「年収1000万円」は超リッチだと思われますが、男性が1000万円の年収を目指すよりも、妻と夫で共働きして、「500万円+500万円=1000万円」を目指す方が、はるかに現実的です。
僕は、夫婦で共働きするほうがいいな〜と思います。
「妻がかかりきりになって子育てすべきだ!」という批判もあるかもしれませんが、別に実家の両親に子育てしてもらってもいいし、家政婦を雇ってもいいじゃないですか。
「妻が責任を持って子育てすべきだ」という世間の風潮は、女性を追い詰めているのでやめた方がいいという話が本書でもありますが、僕も同意ですね。
ちなみに、著者は一人で子育てしていたそうなので(父子家庭)、子育て経験者としての説得力もあります。
これからの結婚、子育ての人生設計として、必読本です。
働き方2.0vs4.0
社会人はマジで必読。
働き方についての本はたくさんありますが、本書が珍しいのは、働き方1.0〜5.0までを説明しているところです。
・働き方1.0 年功序列・終身雇用の日本的雇用慣行
・働き方2.0 成果主義に基づいたグローバルスタンダード
・働き方3.0 プロジェクト単位でスペシャリストが離合集散するシリコンバレー型
・働き方4.0 フリーエージェント(ギグエコノミー)
・働き方5.0 機械がすべての仕事を行うユートピア/ディストピア
安倍政権が進める「働き方改革」とは、働き方1.0を強引に2.0にバージョンアップしようとするものです。
とはいえ、働き方2.0を実現したとしても、世界の流れには追いつけません。
最先端の働き方は、3.0から4.0へと大きく変わりつつあるからです。
本書によると、
アメリカの労働人口の16%〜29%がギグエコノミーに関わっている。
アメリカの労働人口は3億3000万人なので、最大で1億人近い人が、フリーランス、臨時職員、ミニ起業家(マイクロ法人)などで、会社に所属せずに働いている。
━━ということです。
世界的な働き方が、3.0から4.0へと変わろうとしている中で、日本はいまだに「2.0を目指そうぜ!」という話になっていますが、大丈夫なんでしょうか……。
ちなみに、僕が驚いたのは、第二次世界大戦後のアメリカでは、働き方1.0(年功序列・終身雇用)だったらしく、それを日本がマネしたのが始まりだそうです。
このあたりの話も本書で詳しく書かれているので、働き方に関心のある人は必読です。
エイティーズ
1959年生まれの著者の生い立ちが気になる人はおすすめ。
謎だらけの覆面作家である橘玲さんの自伝的エッセイです。
彼が青春時代を過ごした80年代についての回想が中心です。
当時、ソ連がアフガニスタンに侵攻したことで、 西側諸国の制裁措置で日本とソ連の経済活動が大きく停滞し、ソ連とビジネスをしていた貿易商社や旅行会社が軒並み新卒採用を中止したらしいです。
そのせいで、ロシア語やロシア文学を学ぶ大学生は評判が悪くなり、就職活動で苦戦を強いられた時代だったそうです……。
24歳の頃にできちゃった結婚、そして父子家庭を経験、会社の社長と上司がみんな逮捕されてしまった話、オウム真理教を近い距離で取材した話など、まあおもしろいことづくめです。
個人的には、今では映画評論家の町山智浩さんと同じ出版社で働いていたエピソードがおもしろかったです。
当時の流行だった『宇宙戦艦ヤマト』や『セーラー服と機関銃』、『スローなブギにしてくれ』などの話は、僕はあまり興味ありませんでしたが、当時の人からするとなつかしいんでしょうね。
謎の多い橘玲さんの人生が気になる人は、本書がおすすめです。というかこれしか彼の人生を知ることのできる本はないです。
幸福の「資本」論
分かりやすいグラフでの解説なので、読みやすい。
人生100年時代の人生設計を考える上で必読の書。
本書で一番大事なキーワードは以下の3つです。
・金融資産=不動産を含めた財産
・人的資本=働いてお金を稼ぐ能力
・社会資本=家族や友達のネットワーク
これらを全て失った状態は「貧困」ということになります。
ちょっと見にくいですが、人生の8つのパターンをのせておきます。
複雑に見える人間の人生が、たった8つのパターンに分類できるというのは、衝撃的です。
あなたがどんな人生を歩んでいようとも、この8つのどれかに分類できます。
人生をクリアに理解できるので、ぜひ読んでみてほしいです。
中級者向け
無理ゲー社会
「チートを使わないと、人生は攻略できない……」という本です。むちゃ、おもしろい。
現代社会は、まさに無理ゲー(=難しすぎてクリアできないゲームのこと)です。
本書でいちばん衝撃的な図は、これでしょう。

これは「遺伝」と「環境」のどちらの影響が大きいのかを示した図です。
恐ろしいのは、「やる気」の遺伝率が57%、「集中力」の遺伝率が44%だということ。
つまり、努力して勉強できるかどうかのおよそ半分は、遺伝ガチャで決まるということです。
これが事実だとすると、遺伝的に勉強に向いていない子供に、「勉強なんてやればできる!」と説教することがいかに残酷なのかわかりますね。
こんな無理ゲー、とっとと中古で売ってしまって、別のゲームをやりたいところですが、人生は「セーブしてやめる」ことができません。
なんとか攻略法を見つけるしかないんでしょうね……。
日本人というリスク
東日本大震災の直後に書かれたので、不安なムードでいっぱいの本です。
東日本大震災の後に書かれた本で、「被災者の自己責任を問う日本」への疑問、「日本人はなぜ自殺するか?」、「マイホームは買うと損をする」など、大震災で明らかになった日本の闇に触れています。
著者自身、
私の人生設計論の完成形
━━と言っており、「大震災以降、どうやって経済的に生きていくのか?」を考え抜いています。
投資や資産形成の記述は、少しムズカシいですが、東日本大震災の被災者は、「他人事」ではなく「自分事」なので興味を持って読めるでしょう。
著者も東日本大震災を体験しており、普段は冷静な著者もやや感情を見せた文章になっているのが、僕としてはおもしろかった。
残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法
自己啓発本には、よく「やればできる!」と書かれていたりします。
ですが、行動遺伝学的には「努力できない人」は確実にいるのです。
著者はこの事実を前提にして、こう書いています。
もしも僕たちの人生が「やればできる」という仮説によっているならば、この仮説が否定されれば人生そのものが台無しになってしまう。
それよりも、「やってもできない」という事実を認め、その上でどのように生きていくのかの「成功哲学」を作っていくべきなのだ。
──たしかに「やればできる」という言葉を信じすぎると、「やってもできない人」は自分の人生を否定されることになりますから、これはよくないですよね。
「やってもできない」のは悪いことではないのですから、それを受け入れることも必要ですよね。
不愉快なことには理由がある
つまみ読みでも読めるので、読みやすい。
ベーシックインカムから大阪維新の会による相続税100%提唱まで、社会問題を手広く扱った評論集です。
おもしろかったのは、ベーシックインカムの失敗例として、1975年のイギリスのスピーナムランド法を解説しているところです。
働かなくてもお金がもらえるなら、人は仕事のやる気をなくします。
結果的に、ベーシックインカムは、「愚者の楽園」になってしまう……。という恐ろしい話でした。
バカが多いのには理由(ワケ)がある
どこから読んでも、つまみ読みでもOK。
ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンにこんな本があります。
彼いわく、人は「ファスト思考(速い思考)とスロー思考(遅い思考)を使い分けているそうです。
本書のタイトルにある「バカ」とは、
詳しくは本書を読んでみてほしいのですが、ファスト思考だけに陥っている人がいかにバカになってしまうかがわかります。
言ってはいけない中国の真実
僕は中国についてほぼ無知ですが、それでも楽しく読めました。中国初心者向け。
中国人の行動原理の基本とされるのは、「関係(グワンシ)」です。
さらにグワンシは、人間関係を「自己人(ズージーレン)」の「外人(ワイレン)」に二分するそうです。
このへんの中国の特殊な人間関係があるせいで、なかなか中国人と日本人は仲良くなりにくいのかもしれませんね。
中国についてゼロから知りたい人は、おすすめです。
中国人がなぜ、平気で他人を「裏切る」ように見えるのかも理解できます。
「リベラル」がうさんくさいのには理由がある
政治に興味ない人は、読むのが大変かも。
「リベラル」と聞くと、なんとなく自由で個人の権利をしっかり守ってくれる、みたいなクリーンなイメージがあるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。
実はリベラルは、個人にとってはかなり残酷な思想なんですよ……ということが本書を読むと分かります。
とりあえず、最低限覚えておきたいのは、「デモクラシー=民主主義」と訳すのは、誤訳であるということです。

僕も最近まで、このことを知らなかったので、みなさんはぜひ覚えておいてください。
朝日ぎらい—よりよい世界のためのリベラル進化論
朝日新聞に思い入れのある人は、読んでみるとおもしろいはず。
──などなど、朝日新聞にまつわる謎がわかります。
僕は朝日新聞どころか、紙の新聞自体読まないのであまり知らないのですが、昔は「朝日新聞を読む=リベラルな人」みたいな公式があったらしいですね。
残酷すぎる成功法則
翻訳書にしては読みやすいですが、外国の例が多いので、ちょっと分かりにくいかも。
本書はいわゆる自己啓発本ですが、最近のアメリカでは、たとえ自己啓発本でもエビデンスを示して書くことが一般的になっているそうです。
本書には、あくまでエビデンスがあるので、説得力が違います。
個人的には、お互いに全く人を信頼しない国、モルドバが最も幸福度の低い国だったという話が印象的でした。
幸福を達成するには、他人との信頼関係は欠かせないらしいです。
上級者向け
お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方
内容的にかなりムズカシイので、なんども読まないと分からない部分も。
お金についての解説本ですが、けっこうムズカシイです。
サラリーマンという一つの人格だけだと、給料から所得税や社会保険料が引かれまくる。
それを最大限節約するには、マイクロ法人を作るしかない、という話なのですが、このマイクロ法人がけっこうややこしくて理解するのがたいへんでした。
すでにある程度、お金の知識がないと本書を読むのはムズカシイかも。
とはいえ、サラリーマン一筋では搾取されまくることは確実ですから、会社の給料以外に収入源のない人は、一刻も早く「黄金の羽根」を拾わないといけませんね。
(日本人)
僕は楽しく読みましたが、これは人によって当たり外れのある本です。面白くない人は全く面白くないでしょう。
「かっこにっぽんじん」と読みます。
僕たち日本人をかっこに入れて、改めて見つめ直しましょうという趣旨です。
冒頭で衝撃的な価値観調査のデータが示されており、そのデータによると、日本人は、
・日本人であることに誇りを感じない
・権威や権力は尊重しない
━━だそうです。
この異常なデータに、著者は「日本にはカリスマ的な指導者や一神教のような超越者がおらず、日本人はとても世俗的であることが原因だ」と述べています。
その後、政治・経済・進化心理学などの博覧強記のエビデンスを駆使して、他で読んだことのないような日本人論が語られます。
著者は、学生時代、誰とも話さずに1日を過ごすことも多く、会社に馴染める自信がなく、「自分は他の日本人とは違う」という思いから、就職活動もしなかったそうです(僕もこんな感じの学生生活でした)。
しかし、「他の日本人とは違う」と思っていた著者こそが、「典型的な日本人」だった……というのが本書の結論です。
橘玲さんの著書の中でも、集大成的な一冊ではないでしょうか。これほど楽しく読める本は珍しいです。
「読まなくてもいい本」の読書案内
かんたんそうなタイトルですが、けっこうムズイ。
現時点で約1億3000万冊の書物があるそうです。
15歳〜85歳まで毎日一冊読んだとしても、死ぬまでに書物の総数のせいぜい0、2%(2万6000冊)を読んだことにしかなりません。
これを前提に、著者は、「何を読めばいいんですか?」との問いに、
「それより、読まなくてもいい本を最初に決めればいいんじゃないの」
━━と回答しています。
本書では、
・進化論
・ゲーム理論
・脳科学
・功利主義
━━という新しいパラダイムが解説されています。
これら5つの新しいパラダイムよりも前の、古いパラダイムで書かれた本はどれほど名著と言われていようとも、読む価値はない……。著者はそう書いています。
哲学界の超有名人であるフッサールやハイデガーの著書でさえ、本書に従えば「古いパラダイムで書かれた本であり、読む価値がない」ということになります。
上記5つの新しいパラダイムは、すべて理系的、というか自然科学に近いものです。
もはや、文系といわれる社会科学、人文科学は、これら5つの新しいパラダイムによって書き換えられるのかもしれません(というか、現在進行形でそれが起こっている)。
もはや、文系だからといって、進化論やゲーム理論を勉強しなくても大丈夫、なんて時代じゃないですね。
「読むべき本」ではなく、「読むべきでない本」を紹介する、全く新しい読書案内本でした。
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