一人の人生で経験できる量なんてたかが知れている。
だから、小説をたくさん読んで他人の分の人生も追体験しないといけない。
小説は人生を複数体験できるお得な装置なんだ。
だから俺は小説が好き。
では、26歳がえらぶ人生ベスト小説3選を紹介する。
26歳がえらぶ人生ベスト小説3選
悪童日記
とある双子が主人公で、彼らがつける日記がこの小説になっている。
この双子たちの日記は、主観的な情報がぜんぜんないそっけない文章で、まるでコンクリートのように冷たい。しかも一文一文が短い。
著者のアゴタ・クリストフは、自伝『文盲 アゴタ・クリストフ自伝』でこう書いている。
わたしはフランス語をもまた、敵語と呼ぶ。
『文盲 アゴタ・クリストフ自伝』より
別の理由もある。こちらの理由のほうが深刻だ。すなわち、この言語が、わたしのなかの母語をじわじわと殺しつつあるという事実である。
著者はハンガリーからフランスに移住した人で、母語であるハンガリー語を捨ててフランス語を学習しないといけなかった。
俺たち日本語が日本を追われて、急に中国語で生活していかないといけなくなるようなものだ。
この双子が書く文章は、著者が敵語と呼ぶ文章なのかもしれない。
地下室の手記
ひたすら地下室でひとりよがりな手記を書いている男が主人公。
これ、22歳くらいのころの俺にそっくりなんだ。
本書の主人公は、大した実力もないくせに、プライドだけは高く、失敗が怖いからチャレンジはしない。
成功できないのは自分のせいなのに、ひたすら世間や他人のせいにする恨み言を手記に書きまくる。
完全に地下室に暮らす2ちゃんねらーそのもので、ドストエフスキーはこの時代にすでにねらーを描いていたのだ。
俺はこの本を読んで、「うわ、これ俺のことだ!」となって具合が悪くなってしまった。
狂気の本は凶器になる。
この本を読む時は刺されないように気をつけてほしい。
武器よさらば
ヘミングウェイは新聞記者として働いていたこともある人なので、文章に無駄がなく、悪く言えばそっけない。あまり小説家っぽい文章じゃない。
よくハードボイルドと言われる文体なんだけど、実は俺もヘミングウェイの文章を真似して書いているつもりだったりする。
なるべく文章は短く、余計な文字は取り除く。
そんなヘミングウェイの流儀にしたがって生まれたのが、この小説。
文章はミニマルなのに、感動はマキシマムだ。
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