カフカといえば、ぎょろっとした大きな目にそげた頬、悪魔のようにとがった耳が特徴のこの写真が有名ですよね。
カフカの小説は、孤独で、不条理で、主人公になぜか災難ばかりが降りかかってくるという作風です。
ドイツ文学の代表として必ず名前が挙がるほどの有名作家なので、「教養」のために一通り読んでおくといいですよ。
ちなみに、カフカの小説のように不条理で納得できない不思議な世界観のことを、「カフカエスク」と呼ぶことがあります。
「この映画は、カフカエスクだなあ」というように、小説だけでなく映画でも使われる批評用語になっているので、覚えておくと「こいつ、できるな」という印象を与えられます。
では、カフカのおすすめ本を、難易度別に紹介していきます。
初心者向け
変身
短いので読みやすい。
カフカの小説の中では『変身』が飛び抜けて有名ですよね。
──というモチーフは、小説を超えてあらゆる映画にも繰り返し使われています。
気がかりな夢から目をさますと、自分が寝床の中で一匹の巨大な虫に変わっているのを発見した。
──という有名な一文から始まるこの「変身」ストーリーは、間違いなくおもしろい。
このストーリーから、どんな教訓を読み取るかは人によるのですが、僕は、
──という教訓を読み取りました。
実際、本書が書かれた1915年からわずか数十年後に、第二次世界大戦という世界最悪の総力戦が起こったわけですからね。
短くてすぐ読めるお手軽な古典なので、ぜひ。
中級者向け
失踪者
読みやすいけど、そんなにおもしろくないかも。
10代後半くらいの青年が、女性を妊娠させてしまったことを責められ、両親からアメリカに追放されてしまうというストーリーです。
主人公は船でアメリカに運ばれるのですが、その時にアメリカの自由の女神が出迎えてくれるシーンはよかった。
自由よりも家族の保護があった方がいいに違いない、まだ幼い青年を自由の女神が出迎えるというのは、なんとも皮肉です。
ただ、その後の展開は、そんなにおもしろくなかったです。
ただ、文章は読みやすいので、時間があれば読んでみてください。
ちなみに、村上春樹の『海辺のカフカ』も、少年が自由を得て旅に出るというストーリーなので、似ています。
ただし、『海辺のカフカ』で少年を迎えてくれるのは自由の女神ではなく、もっと怖いものだったわけですが……。
ちょっと注意ですが、『失踪者』は『アメリカ』というタイトルで出版されていたりもします。
ぜんぜん違うタイトルですが中身は一緒です。ややこしい……。
上級者向け
審判
文章は硬くて、けっこう読むのがたいへん。
ある日、なんの罪も犯していないのに逮捕され、裁判にかけられ、拷問され、死刑に処されるという、何の救いもないサラリーマンを描いたストーリーです。
この小説のキモは、「罪がないのに罰がやってくる」というところです。
ドストエフスキーの『罪と罰』は、罪を犯した男に与えられる罰を描いたストーリーでしたが、この小説は罪を犯していない男に与えられる罰を描いています。
日本では今まで数百人の人間が、「重大な罪を犯した」として死刑になっていますが、彼らの中には本当は無罪だった人もいたかもしれません。
「死刑と冤罪」をテーマとして読み取ることもできると思います。
実際、この小説が書かれた1915年からわずか数十年後に、何の罪もないユダヤ人が数百万人も殺されているので、この小説は予言の書とも言えるかもしれません。
ちなみに、筒井康隆の『乗越駅の刑罰』という短編が、この小説と似ています。
『乗越駅の刑罰』はこの本に収録されています。
駅の改札を通り過ぎようとしたら、「無賃乗車」の疑いをかけられ、無実だと主張すればするほど有罪になっていき、しまいには周囲の乗客からリンチにあうという、読んでいるとめちゃムカムカするストーリーです。
カフカの小説の現代版としても読めるので、おすすめ。
城
文章が硬くて読みにくい。ちなみに未完です。
主人公の測量士が城に入って仕事をしようとするのですが、いつまでたっても城に入れず、周囲に住む村人に翻弄されていくというストーリー。
ぶっちゃけ、僕にはよくわかりませんでした。
主人公は測量士のくせして、測量のための道具もなにも持っていないし、城の門はいつまでたっても硬く閉じたまま開かない。
そもそも、ほんとに城から測量士として呼ばれているのかどうかも、よくわからないんですよね。
ちなみに、カフカの生まれ故郷であるプラハには「プラハ城」という城があります。
本書がこの「プラハ城」を描いているのかは分かりませんが、僕はこのきれいな城を思い浮かべながら読みました。
この城に入れないまま、城の周囲にある村に住む村人から翻弄され続ける主人公……。
城のイメージを思い浮かべながら読むと楽しいですよ。
短編
カフカは短編もけっこう難しいですが、短いのですぐ読めます。
流刑地にて
(『流刑地にて』はこの短編集に収録されています。)
長短2つの針がベッドに寝かされた囚人を突き刺しながら、12時間かけて刻み目をいれていく、という趣味の悪いグロテスクな処刑機械をめぐる短編です。
殺すのなら、一息に殺してあげればいいのに……と思いますが、「苦しませる」ことが罰なんでしょうね。
掟の前で
これは、すごく意味深長な短編ですよ。
読んだ時、僕はかなり震えましたね。
ネタバレなんですが、Wikipediaからあらすじを引用しておきます。
田舎から一人の男がやってきて、掟の門の中へ入ろうとする。掟の門は一人の門番が守っており、今は入れてやれないと言う。
また仮に入ったとしても、部屋ごとに怪力の番人が待ち受けていると説明する。
男は待つことにし、開いたままの門の脇で何年も待ち続ける。その間に男は番人に何度も入れてくれるよう頼み、そのために贈り物をするなどして様々に手を尽くす。
そうするうちにいつしか他の番人のことを忘れ、この門番ひとりが掟の門に入ることを阻んでいるのだという気になる。
やがて男の命が尽き、最後に門番に対して、なぜ自分以外の誰も掟の門に入ろうとするものが現れなかったのだろうかと聞く。
この門はお前ひとりのためだけのものだったのだ、と門番は答え、門を閉める。
──どうですか? すごく象徴的で意味ありげなストーリーですよね。
誰も通れない「門」なんて「壁」と同じですが、主人公はどうすれば門を通れたんでしょうか。
橋
(『橋』は、この短編集に収録されています)
人間が橋の上を渡るのですが、「人間の顔が見たい」と思った橋が、ぐるりんと寝返りを打つように回転して、人間が転落するというヘンテコなストーリーです。
まるで、橋が生きているかのように描かれているのが不気味です。
短い小話なのですが、僕は強烈に印象に残っています。
カフカを知るためのおすすめ本
カフカの人生や性格を知るのにおすすめの本も紹介しておきます。
絶望名人カフカの人生論
元気が出ますよ。
カフカは何度も自殺を考えていたネガティブな作家だったそうですが、そんなカフカのネガティブ名言を集めた本です。
僕が好きな名言は、
いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです。
二人でいるほうが、もっと孤独。
──いやあ、ネガティブですねえ。
でも、不思議と「がんばれ!」みたいな励ましよりも、こういうネガティブ名言の方が元気出たりするんですよね。
心が折れそうになった時にぜひ読んでください。
カフカはなぜ自殺しなかったのか? 弱いからこそわかること
カフカの生涯がサクッとわかる、読みやすい本。
生きているカフカが見たら怒りそうなタイトルですが、カフカの生涯がサクッとわかるのでおすすめ。
何度も自殺を考えていたカフカですが、彼の人生の最期は自殺ではなく病死でした。
カフカのように弱い人間だからこそ分かることもある。
読むと元気をもらえる本です。
となりのカフカ
カフカについてゼロから知りたい場合は、本書がおすすめ。
カフカの小説は謎が多いですが、その謎を解くきっかけになります。
ちなみに、カフカは生涯でなんどか婚約したものの、結婚は一度もしませんでした。
結婚しない理由について、カフカはこう書いています。
もし結婚して僕のように無口で鈍くて薄情で罪深い子どもが生まれたら、僕はとても我慢できず、他に解決策がなければ、息子を避けてどこかへ逃げ出してしまうでしょう。
僕が結婚できないのは、こういうことも影響しているのだ。
──現代では、生涯独身の人も珍しくないですが、カフカのこの言葉は刺さりますね。
カフカ事典
カフカのことならなんでも分かるほどの網羅性です。
カフカガチ勢になってきたら、こちらの事典がおすすめ。
めちゃくちゃ細かい情報までのっているので、カフカを研究したい大学院生などには特におすすめです。
研究が目的でなくても、謎が多いカフカの短編の執筆背景や考察なども書かれているので、参考になりますよ。
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