尾原和啓(おばら かずひろ)さんは、IT評論家として知られています。
彼は13回転職をし、世界各国を渡り歩いているという変わったキャリアの持ち主なのですが、
──とよく本で書いているのを見かけます。
ノマド的な生活が注目されてから何年か経ちますが、本当に「どこでも誰とでも働ける」人はそれほど多くないでしょうし、彼はその珍しいお手本だと思います。
ちなみに、彼がいつも赤いマフラーをしているのは、
たしかに、人生は自己紹介の連続ですし、赤いマフラーでキャラづけしておけば、「ああ、あいつか」となるので、人脈も広げやすいのかもしれません。
この記事では、そんな尾原和啓さんの著作を難易度別にまとめました。
ITの興味のある人なら、どの本もおもしろいはずです。
初心者向け
どこでも誰とでも働ける
尾原和啓さん入門に最適。いちばん読みやすい。
著者は、Google、マッキンゼー、リクルート、楽天など12回以上の転職をしているそうですが、前職の同僚たちとも仲の良い関係が続いているそうです。
なぜ、辞めた職場の人間関係が続いているかというと、
せっかく良い評判を得ていても、それが会社内だけでは大したメリットにはなりません。
ネット上にも良い評判を広げていくと、「どこでも誰とでも働ける」ようになるわけです。
逆に言うと、なにか「やらかした」時の悪い評判もネット上に永遠に残り続けるので、怖い時代でもあるわけですが。
僕は、前に辞めた会社とは完全に縁が切れてしまっているので、前の職場とも人間関係がリセットされないようにしたいな、と思いました。
モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書
30代以下の若者は、共感しまくるはず。
団塊の世代より上の高齢者たちは、「おいしいもの食べたい」・「美女を抱きたい」など目に見える肉体的な快楽を味わうことが幸福の形でした。
しかし、僕たち若い世代は生まれた頃から、食事も衣服も娯楽もすべてそろっていましたから、「〇〇が欲しい!」というような「モノ」を欲しがる欲求があまりありません。
(著者は、欲のない若者世代を「乾けない世代」と表現しています)
そんな若者世代を「最近の若者は欲がなくて、つまらん」と批判する人もいます。
しかし、本書の結論は、こうです。
物欲のない若者世代はお金で釣られにくいため、「給料が高いかどうか」ではなく「仕事にやりがいがあるかどうか」で就職を決めます。
今は、SDGsをはじめとして、「経済成長=幸福」という神話が崩れ始めていますから、お金だけで釣られない若者世代は、意外と強いんじゃないか、ということです。
僕も、大学4年生の時の就活では「働く意味」がまったくもってわからなかったのですが、本書を読んで少し理解できました。
というか、22歳で働く意味なんかわからなくて当然なんですよ。
「だからゆとり世代はダメなんだ」
──こんなことを言う人には、尾原和啓さんの『モチベーション革命』のこの文章を見せてあげましょう。 pic.twitter.com/8J4hyT0ezE
— タロン@本読み (@shin_taron) August 12, 2020
ザ・プラットフォーム
初心者向けで読みやすい。
もはや、Apple・Google・Amazonなどの巨大IT企業がないと僕たちの生活はままなりません。
最近だと、Amazonが1,300億円を投じて75万人の従業員の学費を負担したことがニュースになっていましたが、教育って本来は国や政府がするはずのことですよね。
それを国に代わってAmazonという企業が負担してしまう。
もはや、国がやるべきことをAmazonなどの巨大IT企業がやってしまっているので、もはや、
──とさえ言えるかもしれません。
もはや国や政府に代わって、僕たちの生活の土台(プラットフォーム)になっているIT企業の基本的な戦略が分かる本です。
あえて数字からおりる働き方
ブログやTwitterをやったことのない、情報発信初心者におすすめ。
今は、人の評判が「見える化」されている時代です。
誠実そうに見える人でも過去の経歴をネットで調べてみるとなんども炎上していたり、逆にヤバそうな人の経歴を調べてみると実はちゃんとした人だったり……。
メルカリを例にするとわかりやすいです。メルカリは過去の取引全てが相手から「Good」か「Bad」かで評価され、公開されます。
メルカリは評判が一目でわかる世界なのです。
そんな人の評判が「見える化」される社会では、ネット上でも「Good」評価を貯めていく必要があります。
そして、ネット上でも「Good」評価を得られる、もっともかんたんな方法が、
お金はGiveすると減りますが、知識はGiveしても減らないどころか、相手から感謝されますし、「あ、この人知識が豊富でちゃんと教えてくれる良い人だ」というように「Good」評価の貯金も貯まります。
著者は、
「ギブ&テイク」ではなく、「ギブギブギブギブギブ&ギブ」でちょうどいい。
──と、知識のGiveが大事だと、繰り返し書いています。
ネット上で「Good」評価を得るには、まずはあなたが持っている知識をコツコツGiveすることから始めるとよいのです。
プロセスエコノミー
Youtuberになりたいけど、ネタがない……と悩む人は本書を読むと、目が覚めますよ。
今って、できあがった商品に大して差がないですよね。
たとえば、ユニクロのようなファストファッションでも有名ブランドでも、服としての質はあまり変わりません。
それに、『芸能人格付けチェック』というお正月の定番番組では、1本数万円の高級ワインと、数百円のコンビニワインを飲み比べたりしますが、けっこうみなさん間違えたりしますよね。
ほら、やっぱり高級ワインだろうが安物ワインだろうが、言われなければ分からないくらい差がないんですよ。
こんな時代では、出来上がった制作物ではなくて、
──これが、プロセスエコノミーです。
漫画家なら、漫画を描く過程を。
料理人なら、料理をする過程を。
小説家なら、原稿を書く過程を、YouTubeでライブ配信すれば、共感した視聴者から投げ銭をもらえるかもしれません。
なにより、クリエイターの孤独を和らげてくれるのがいちばんのメリットでしょう。
現代の商品の価値が変わりつつあることを示しているのが、本書です。
尾原和啓『プロセスエコノミー』
制作物を売るだけでなく、それを制作するプロセスも売れる時代。
村上春樹が小説の原稿を書いているプロセスをYouTubeでライブ配信すれば、かなり投げ銭が獲得できそう😌https://t.co/frPk7xMdyU
— タロン@本読み (@shin_taron) August 3, 2021
仮想空間シフト
二人ともITに強いのでおもしろく、コロナ前の「みんな会社に集まる働き方」を古い神話と言って切り捨ててるのが最高。
「フォートナイト」や「スプラトゥーン」などのオンラインゲームでは、知らない人たちと1ゲームごとに誰と組んで、誰と戦うかがシャッフルされて目的達成を競う。
1ゲームごとにメンバーが変わるので、そのたびに「自分はリーダーをするべきか、それとも縁の下の力持ちの役になるべきか」と小さい子供たちが仮想空間上で人間関係の結び方を学んでいる。
狭い会社の中の固定された人間関係だけで苦しんでる俺たち大人よりも、仮想空間で遊ぶ子供たちのほうがよほど社会性が高いよねって話が衝撃だった。
これからの子供たちは在宅で仮想空間上で仕事をするようになり、リアル空間でわざわざ通勤電車に揺られて消耗してるのは仮想空間についていけない哀れな大人だけ、って未来が来るのかもしれない。
中級者向け
アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る
僕がITに興味を持つきっかけになった本。読むべし。
この本は、かなり衝撃的ですよ。
詳しくは、別記事で書評を書いたのでよければ。
特に中国で流行っているジーマ・クレジットという信用スコアが衝撃的でした。
このジーマ・クレジットのおかげで、中国人がみんな「良い人」になった……というとうさんくさく聞こえますが、読むと納得するはずです。
ITビジネスの原理
ちょいむずかしめ。
ウサイン・ボルトは9秒台で100メートルを走るといっても、俺だって20秒もあれば走れる。
肉体的な生産量の差は、世界のトップレベルと比較しても2倍くらいしか変わらない。
でも、俺とスティーヴ・ジョブズの生産性を比較したら2倍どころか、1兆倍くらいあるかもしれない。
つめり、肉体労働では大した生産量の差は生まれないけど、知的労働では絶望的な生産量の差が生まれる。
となると、やはり働くべきなのは肉体労働ではなくITなどの知的労働ってことになる。
「自分の生活を安定させたいなら生産量の低い肉体労働ではなく、知的労働をするべき」ってことがわかる本。
DX進化論
コロナによって、オンラインに強制シフトさせられた現代の課題を討論しています。
対談本なので読みやすい。
DXとは、「デジタルトランスフォーメーション」のことです。最近はよく言われるようになりました。
特に、
「最大”多数”の最大幸福から最大”多様”の最大幸福へ」
──という話がおもしろかった。
コロナによって、多くのDXが半強制的に進められたことによって、着実に世界は変わりつつあると実感できる本です。
尾原和啓ほか『DX進化論 つながりがリブートされた世界の先』
「福沢諭吉がタイムマシンに乗って現代に来たら、インターネットの発達には驚くだろうが、民主主義はぜんぜん変わってないので驚かない」
って話がおもしろい。
民主主義はギリシア時代から変わってない?
https://t.co/ohLEjivGBh— タロン@本読み(ビジネス書多め) (@shin_taron) October 7, 2021
上級者向け
アルゴリズム フェアネス
ちょいと難しめかも。
本書のタイトルになっている「アルゴリズム」とは、辞書的に言えば、
「数学やコンピューターで問題を解くための手順を定式化したもの」
──です。
もっと簡単に言えば、
「優劣を決めるもの」
──ということになります。
たとえば、「ラーメン店 おすすめ」でググると、あなたの好みや、立地、値段、現在地からの距離などの要素をひっくるめて、「一番のおすすめはここ、二番目はここ」というように、スマホが教えてくれますよね。
この計算をしてくれるのが「アルゴリズム」です。
しかし、当然、その検索結果には表示されないラーメン店もあるわけですから、そのラーメン店はその人からすると「存在していないのと同じ」ということになります。
では、googleという一企業が、情報に優先順位をつけてしまっていいのでしょうか?
ラーメン店ならまだいいかもしれませんが、たとえばGoogleが意図的にとある情報を検索結果に表示させなくなるとするとどうでしょう?
たとえばGoogleがアルゴリズムを変更して、「実は地球は丸いのではなく、平面だ」という間違った事実を検索結果に表示させたとすると、僕たちはそれを信じてしまうかもしれません。
つまり、Googleはアルゴリズムをちょちょいと変更するだけで、世界中の人たちの思想をコントロールできる力を秘めているということです。
そんな危なっかしいアルゴリズムを暴走させないためには、「アルゴリズム・フェアネス」という考え方必要だという考えが本書では書かれています。
ブロックチェーンや仮想通貨の話も出てくるので、かなり情報量が多いですが、間違いなく良書です。おすすめ。
尾原和啓『アルゴリズム フェアネス』
僕たちはGoogleを無料で使っているように錯覚しがちですが、実は個人情報が抜かれまくってるんですよね🤔
「私たちはGoogleに自由を保障してもらっている代わりに、個人情報という税金を徴収されている」https://t.co/9cZYJdZS28
— タロン@本読み(ビジネス書多め) (@shin_taron) September 22, 2021
ディープテック
ちょい難しい。
「ディープテック」という言葉は初耳の人が多いと思いますが、けっこうムズカシイ言葉のようです。
著者がディープテックを解説している部分を引用します。
地球規模での課題が山積しているこの時代に必要なのは、「何のためにテクノロジーを使うのか」という視点に他ならない。
そこで浮かび上がってきたのが、ハイテクとローテクを「知」によって新結合し、その集合体をテクノロジーと捉えるという概念。そして、それこそがディープテックなのである。
中略
ハイテクとディープテックは異なるものだ。
大学の研究員など学力の高い人たちが牽引するのがハイテクであるならば、ディープテックの特徴は誰でも参加できるという点だ。
つまり、ディープテックは「誰にでも開かれていて、誰でも参加可能、退場可能」ということですかね。
本書では各国のディープテック事例が紹介されているのですが、けっこう難しめです。
ディープテックについては僕も知識がないので、こちらを読んで一緒に勉強しましょう。
https://www.sbbit.jp/article/cont1/37769
コメント