村上春樹は、世界で最も有名な日本人作家です。
村上春樹、というよりハルキ・ムラカミですね、もはや。
しかし、一方で村上春樹の作品には、「女性をバカにしている」などの批判もあります。
それでも、僕が村上春樹を読む理由は、ただ一つ。
村上春樹の文体って、もはや麻薬です。
一度味わってしまうと、もう逃げられない。
1ヶ月読むのを止めると、ふつうに禁断症状が出ます。(ヤバイやつ)
「麻薬には中毒性があるから規制する」というのであれば、
──と思っています。(けっこう本気で)
ほんとにハマると抜けられないんですよね。村上春樹は。
ということで、今回は、そんな麻薬的な村上春樹作品をランキングにしてみました。
さあ、村上春樹の世界におぼれましょう。
村上春樹長編ランキング
もちろんですけど、ほんと個人的なランキングですからね。
いくらでも異議は認めますので、怒らないでくださいませ……。
1位 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
ぶっちぎりで、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』が1位です。
この作品は村上春樹には珍しく、霊界とか地下世界とかパラレルワールドとかは出てきません。
昔、急に仲良しグループからハブられた理由を、大人になってから探し始めるというストーリーです。
ハブられた理由を探すという分かりやすいストーリーラインがあるので、とにかく読みやすい。
その仲良しグループには、赤松・青海・白根・黒埜のように、色がついた名前の人が集まっているんです。
でも、多崎つくるには色がない……。
そう、これは色彩を持たない多崎つくるが、無色の苦しみを味わうという話なのです。
戦隊モノに、ゴレンジャーとかってあるじゃないですか。
あれは、それぞれに色がついている、つまり個性がついているってことですよね。
その中に無色がいたら、まあ、居場所ないですよね。
急にグループから、ハブられるっていうのは、あなたも経験ありません?(僕はありまくり)
経験ある人は、まちがいなく、多崎つくるに感情移入できます。
僕は感情移入しまくって、しんどくなりました。
──そんな風に思わせてくれた小説です。
愛おしい小説です。
2位 風の歌を聴け
村上春樹のデビュー作です。
たしか、僕の村上春樹初体験は、この小説でした。
もう、衝撃でしたね。
・なんだ、この性的にだらしない男と女は?
・なんだ、このマネしたくなる文章は?
──衝撃しかなかったですね。
特に、
完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。
──という最初の一行は、カッコ良すぎる。
村上春樹は、今も、完璧な文章など求めずに、何十年も世界作家として書き続けているのです。
世界のハルキ・ムラカミの誕生を、高らかに歌い上げた傑作です。
『ノルウェイの森』は初心者には分かりにくいので、こちらを先に読むべきです。
3位 1Q84
平成の30冊にもえらばれた、ベストセラー小説です。
僕らが住む1984年と、1Q84年のパラレルワールドのストーリーです。
1Q84の世界には月が2つあって、「さきがけ」という新興宗教があって……。
もう、ワクワク100%です。
主人公が月が2つあるのを発見して、「ここはパラレルワールドなんだ」と気づくシーンは、文学史上、最高にワクワクするシーンです。
ちなみに、外国版だと、2つある月が幻想的に描かれています。(僕は外国版のデザインが好き)

文庫本全6冊なので、村上春樹作品の中でも最長ですが、読む価値はありまくり。
そのうち、国語の教科書にも『1Q84』がのるのではないかと、勝手に思っております。
4位 海辺のカフカ
「君はこれから世界でいちばんタフな15歳の少年になる」
──という声で、物語が始まります。
村上春樹作品でも、いちばん若い主人公です。
青春小説かなーと思いきや、父親殺し、猫殺しなど、けっこうエグいシーンが多いのも特徴。
村上春樹が父親のモチーフを押し出したのは、この作品が初めてですね。
村上春樹自身も父親との関係が悪かったらしく、そのへんの事情が作品にも出ているかもしれません。
個人的に、宮部みゆきの『ブレイブ・ストーリー』に似ている気がしました。
──という点では、どちらも同じですね。
もちろん、『ブレイブ・ストーリー』よりも、『海辺のカフカ』のほうがずっとむずかしいのですが……。
5位 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド
長ーーーいタイトルですね。
思うのですが、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』などの、今のラノベの長いタイトルって、村上春樹から始まったんじゃないですかねえ……。
・世界の終わり=壁に囲まれた異世界
・ハードボイルド・ワンダーランド=現実世界
──という、二重構造の世界が交差するストーリーです。
ただ、現実世界とは言うものの、ふつうの現実とはちがっていて……。
地下にひそむ「やみくろ」という謎生物から逃げながら、地下世界を冒険するなど、かなりハラハラの冒険小説でもあります。
➡︎静
・ハードボイルド・ワンダーランドの章
➡︎動
──という、「静」と「動」のストーリーが交差して、最終的に1つにまとまるストーリーラインは見事です。
「一見、無関係な登場人物が実はつながってました」というカラクリは、伊坂幸太郎に近いものがありますね。
6位 騎士団長殺し
村上春樹の最新作ですが、読んでみると、けっこう驚きました。
えっ! 今までの村上春樹どこいったん!?
外国小説っぽい雰囲気があった今までとはちがい、この作品では、『雨月物語』や『春雨物語』など、日本の古典がよく出てきます。
とはいえ、文章自体は今までの村上春樹ですし、結末の持って行きかたも村上春樹風です。
村上春樹のすごいのは、
・日本的な小説
──両方の雰囲気を持った小説を書けることですね。
日本文学と外国文学への両方の理解があるという、けっこう珍しい作家だと思います。
7位 ねじまき鳥クロニクル
急に妻が失踪するという、村上春樹作品ではよくあるハプニングからストーリーが始まります。
村上春樹の長編では、もっともグロいとされる悪名高い「皮剥ぎシーン」があります。
僕も読んでてかなり気持ち悪くなりましたが、なぜこんなグロいシーンを描いたのか?
村上春樹作品の中でも、もっとも直接的に戦争を描いている作品です。
「村上春樹は、ポップで世間知らずな世界ばかり描いている」とお思いのあなたはまちがってますので、ぜひこれを読んでみましょう。
あと、もう一つおすすめしておきたいことが……。
『ねじまき鳥クロニクル』には、主人公が戦地で井戸に落ちるシーンがあるのですが、ここが超名シーン。
狭い井戸に閉じ込められた主人公の心の移ろいを描いたシーンは、本当に傑作です。
これぞ、純文学っていう感じの濃密な文章です。
8位 ノルウェイの森
──と著者が断言した、村上春樹最大級のヒット小説。
しかし
これねえ、どう考えても、村上春樹を初めて読む人にはおすすめできません。
「『ノルウェイの森』で村上春樹にハマった」って人は、けっこう少ないんじゃないでしょうか?
主人公の独特な心の動きとか、恋人が療養所にいるところの深層世界的描写など、村上春樹の前作までを読んでいないと意味がわからないと思います。
ストーリー的には、夏目漱石の小説によくあるような恋の三角関係です。
『ノルウェイの森』の森という字は、そのまま三角関係を示しているのではないかと思います。(無理やり)
世間的にはバカ売れしましたが、村上春樹自身は、この小説をそんなに好きではないようです。
村上春樹はこう言っています。
小説が十万部売れているときには、僕はとても多くの人に愛され、好まれ、支持されているように感じていた。でも『ノルウェイの森』を百何万部も売ったことで、僕は自分がひどく孤独になったように感じた。そして自分がみんなに憎まれ嫌われているように感じた。
あまりにも売れすぎると、かえって著者の精神状態には悪いんですよね。
村上春樹ブームを起こした本ですが、僕としてはそこまで好きというほどでもありません。
9位 羊をめぐる冒険
羊を探しに北海道にまで冒険しに行く話です。
村上春樹の初期の小説って、けっこう羊がモチーフとして出てきます。
──と疑問に思ったのですが、僕の答えはこうです。
羊というのは、日露戦争の防寒具用に明治政府によって振興されたものの、敗戦とともにいらなくなって飼育数が激減したという歴史があります。
作中に出てくる羊男というのは、戦争という人間の都合で翻弄された羊たちの恨みの象徴なのです!
作中では、羊男はすっとぼけた感じの愛すべきキャラクターな感じがしますが、実は、
──と思いましたね。
あなたは、羊男の正体はなんだと思いますか?
ちなみに、本作に出てくる羊男です。

10位 スプートニクの恋人
すれ違いの恋愛を描いた、恋愛小説です。
短くてさっくり読めるので、インスタントラーメン的にすぐ楽しめる恋愛小説としておすすめです。
僕が最高に気に入っている文章があります。
地球の引力をただ1つの絆として天空を通過しつづけているスプートニクの末裔たちのことを思った。彼らは孤独な金属の塊として、さえぎるものもない宇宙の暗黒の中でふと巡り会い、すれ違い、そして永遠に別れていくのだ。かわす言葉もなく、結ぶ約束もなく。
──これは、すれ違う恋人たちの皮肉な運命の分かりやすいメタファーですよね。
村上春樹の小説の中でも、トップレベルに好きな文章です。
11位 ダンス・ダンス・ダンス
踊るんだ。音楽が続く限り。
──タイトルは「ダンス✖︎3」ですが、べつに主人公が踊りまくるという話ではありません。
「いるかホテル」という変わったホテルをめぐるストーリーなのですが、けっこう怖いんですよね。
ホテルが急に真っ暗になって、「なにか」が追いかけてくるシーンがあるのですが、そのシーンはふつうにホラーです。
村上春樹はどうやら資本主義がおキライらしく、
無駄というものは高度資本主義社会の最大の美徳である。無駄は矛盾を引き起こす燃料であり、矛盾が経済を活性化し、活性化がまた無駄を作り出す
──とまで言っています。
村上春樹の小説って、バーで酒飲みまくって、車でバカスカ移動して、ラブホテルで寝る……という、わりと消費しまくってる感じがしますけどね……。
12位 1973年のピンボール
村上春樹の第二作目ですが、僕はそれほど楽しめず。
双子の少女が出てくるのは面白いのですが、その後、ピンボール台を探すことの意味がよくわからず、ストーリー的には消化不良でした。
ただ、本作では短い文章が多く、めちゃくちゃ切れ味がいいです。
とにかく遠く離れた街の話を聞くのが好きだ。そういった街を、僕は冬眠前の熊のようにいくつもため込んでいる。
物事には必ず入口と出口がなくてはならない。そういうことだ。
同じ1日の同じ繰り返しだった。
どこかに折り返しでもつけておかなければ間違えてしまいそうなほどの1日だ。
──こういう短くてハッとさせられるような、文章が初期には多いです。
ただ、この後、村上春樹の小説が長くなってくるにしたがって、文章も長くなっていきます。
短い決め台詞が読めるのは、初期の作品だけなので、そういう意味では貴重な作品です。
あと、「朝起きたらベッドの両隣にかわいい双子が寝ていた」みたいなシーンがありましたが、
いくらハルキ・ワールドとは言え、調子乗りすぎ
──と思ってしまいました。
13位 国境の南、太陽の西
バブル絶頂期の日本が舞台なのですが、これは微妙でした。
途中までは、『ノルウェイの森』的な盛り上がりがあって、
──と思ったのですが、後半たいぶ失速しました。
村上春樹自身も、「失敗作だった」的なことを言っているので、やはり失敗作なんでしょうね。。。
作品そのものよりも、この作品をきっかけにドイツで起こった文学論争のほうがおもしろいですね。
どうやら、文学論争をこえて個人攻撃になるというドロドロのドロ試合になったそうです。笑
やっぱり、村上春樹の過激な性描写には、世界的にも賛否両論あるようです。
14位 アフターダーク
村上春樹の中では、実験的な作品です。
ただ、僕としては楽しめなかったなあ……。
映画のカメラワークのように物語が進んでいくのですが、これが慣れない。
今までのハルキの小説とちがいすぎて……。
村上春樹は映画が大好きらしく、映画のカメラ的な手法で小説を書いてみたのかもしれませんが、僕としては失敗作に思えます。
おわりに
長い間、お疲れ様でした。
ハルキ・ワールドを少しでも知っていただければ幸いです。
どれから読めばいいのか悩むと思いますが、やはり、最初に読むべきは『風の歌を聴け』でしょう。
村上春樹の処女作ですが、これを読んで拒絶反応が起こるようであれば、ハルキ・ワールドには向いてないと思います。
短い作品なので、アルコールパッチテストみたいに、「自分がハルキ・ワールドに向いているかどうか」を試験的にたしかめてみるのもいいと思います。
ただ、最後に注意ですが、ハルキ・ワールドにハマると、
だいぶ時間をとられますよ。
作品数も多いので、一度ハマるとしばらく抜けられません。
以上、最後まで、お付き合いいただきありがとうございました!
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