村上春樹には実は、失敗作というか封印作と言える小説があります。
それが、『街と、その不確かな壁』。
『文學界』1980年9月号に掲載されましたが、その後、単行本化しておらず、この雑誌でしか読めません。
ということで……
図書館まで行って読んできましたよ、村上春樹の封印作。
村上春樹は読まれるのを嫌がるでしょうが、過去の恥ずかしい若書きを読まれるのも人気作家の宿命、ということで勘弁してください。
わざわざ図書館員の人が閉架書庫から引っ張り出してくださいました。
最初のページはこんな感じ。
一行目から村上春樹ワールドが出ています。
あらすじをざっくり言うと、
主人公が街にやってくるときに、門番から影を切り取られてしまう。
自分の影は、日に日に衰弱していく。影が死んでしまうと、二度と街の外には出られない。
主人公は街の図書館で、女の子と一緒に記憶を整理していたが、それを捨てて、自分の影と一緒に街から逃走する。
現実世界に戻った主人公は、時折、街で吹き鳴らされていた角笛の音を聞く。
それは、街の不確かな壁のすき間から漏れ聞こえてくるのだろう。
自分の影は、日に日に衰弱していく。影が死んでしまうと、二度と街の外には出られない。
主人公は街の図書館で、女の子と一緒に記憶を整理していたが、それを捨てて、自分の影と一緒に街から逃走する。
現実世界に戻った主人公は、時折、街で吹き鳴らされていた角笛の音を聞く。
それは、街の不確かな壁のすき間から漏れ聞こえてくるのだろう。
──こんな感じのストーリーです。
後に書かれる『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』とそっくりな世界観ですね。
特に、影と一緒に街から逃げるシーンは、ほぼ『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』と一緒です。
村上春樹自身が「失敗作だった」と認めているようですが、僕はかなり傑作だと思いますね。
ちょうど50ページくらいでうまくまとまっていますし、ファンタジー的冒険小説として楽しく読めます。
ただ、村上春樹には会話の軽妙さがあるはずなのですが、会話文があまりしっくりこなかった感があります。
まあ、いずれにせよ、
「記憶・ことば・壁・影」をめぐるテーマを書ききるには、村上春樹はまだ若すぎたのかもしれません。
今や、世界的人気作家のほとんど唯一の失敗作。
興味がおありの方は、図書館までどうぞ。
(こんなときのための図書館ですからね!)
封印作といえば、村上春樹にはもう一つ封印作があります。
昔、村上龍と対談したときの『ウォ-ク・ドント・ラン』です。
これも絶版になっていて、びっくりするくらい高値がついています。
今の村上春樹なら絶対に言わないようなことを言っているスキだらけの本なので、村上ファンの人は一度読んでみてはいかかでしょう。
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