山口周さんは、電通の元社員で、現在は独立研究者として、有名企業のコンサルタントなども務めておられるようです。
彼は、慶應義塾大学大学院で、美学美術史学を専攻していたそうです。
一見、ビジネスにはまったく役に立たなそうなアートを学んでいた山口周さんですが、彼のキャリアを見るとバリバリのビジネスマンです。
アートをビジネスに活かしたという点では、山口周さんはスティーブ・ジョブズと共通する天才肌の持ち主、とさえ言えるかもしれません。
では、そんな山口周さんの著作を、難易度別に紹介していきましょう。
初心者向け
武器になる哲学
「役に立たない哲学」というイメージを正面からひっくり返していく名著です。読むべし。
個人的には、山口周さん一の名著だと思うのが本書。
一般的な哲学入門書は、アリストテレスやプラトンなどからスタートしますが、
たとえば、古代ギリシアの哲学者たちは全てのものは「火」「水」「土」「空気」という4つの元素から成り立っていると考えてたそうです。
でも、現代の自然科学はこれが完全に間違いであることを明らかにしています。
もちろん、だからといって古代ギリシアの哲学を学ぶ価値がないわけではありませんが、
本書では、プラトンやカントは仕事には役に立たないということで、解説されていません。
その代わりに、サルトルやハンナ・アーレント、マキャベリなどの、「仕事でも役に立つ」哲学に絞って紹介されています。
全部で50個の哲学が紹介されているのですが、どれもこれも「明日から役に立つ哲学」ばかりです。
実は僕は、本書だけは何度も繰り返し読んでいるので、電子書籍版を買っていつでも読めるようにしているくらいです。
50個の哲学のうち、どこから読んでも大丈夫ですし、ぜんぶ読む必要はありませんので、つまみ読みでOKです。
劣化するオッサン社会の処方箋
読みやすい。
本書では、オッサンをこのように定義しています。
・古い価値観に凝り固まり、新しい価値観を拒否する
・過去の成功体験に執着し、既得権益を手放さない
・階層序列の意識が強く、目上の者に媚び、目下の者を軽く見る
・よそ者や異質なものに不寛容で、排他的
まあ、「いかにも」なオッサンの特徴ですよね。
ですが、このオッサンたちは、高度経済成長期の「マジメに企業で言われた通り働いていれば幸せになれる」という価値観で育ってきた人で、バブルがはじけて以降は、「社会に裏切られた」という不満を持っている人なのです。
その不満が、店員さんや駅員さんなど、目下の者に大して爆発してしまっている。というのが本書の一つの答えです。
オッサンを批判する本書ですが、最後にはそんなオッサンたちへの希望も書かれているのでお見逃しなく。
山口周『劣化するオッサン社会の処方箋』
30年働いたオッサン「俺には30年の経験がある!」
でも、実は「1年の経験から学び、後は同じことを29年繰り返していた」だけかもしれない。
常に新しいことにチャレンジするオッサンになりたいなあと、、、https://t.co/mVu2sYuumh
— タロン@本読み (@shin_taron) August 13, 2021
仕事選びのアートとサイエンス
転職で焦っている人におすすめ。
書店には転職をむやみにおすすめする本が多いですよね。
そういう本は「そもそも転職すべきなのか?」という疑問を、スルーしていることが多いです。
人によっては「転職すべきでない人」もいますからね。
本書で読んでおくべきなのは、「転職エージェントの習性について」です。
転職エージェントは、「進路相談の先生」みたいな存在で、あなたの適正に合った仕事を代わりに探してきてくれます。
しかし、転職エージェントは基本的に、
つまり、転職エージェントからすると、転職させればさせるほどお金が儲かるわけですから、お金に目がくらんだ転職エージェントは「転職すべきです!」とあなたを煽って、すぐに転職させようとしてくるのです。
もちろん、本気であなたの将来を考える親切な転職エージェントもいるでしょうが、彼らはボランティアでやっているのではなく、背後にはお金が絡んでいることは絶対に知っておいた方がいいです。
転職エージェントの習性については、本書で詳しく書かれているので、ぜひ読むべき。
ビジネスの未来
右肩上がりに成長するビジネスという時代が終わりつつあることがわかる本。おもしろい。
資本主義はブレーキが壊れているので、ほっとけばいくらでも進んでいきます。
ですが、本当に成長は永遠に続くのでしょうか?
著者は、そこに疑問を感じ、こう書いています。
地球の資源と環境に一定のキャパシティーがある限り、すべての国はいずれどこかで成長を止めざるをえません。
この「成長が止まる状況」を「文明化の完成=ゴール」として設定すれば、日本は世界で最も早くこの状況に行き着いた国だと考えることができないでしょうか。
日本では、まだまだGDP=経済成長を追い求める流れが止まりませんが、ほんとにそれでいいのでしょうか?
GDPの伸びが停滞したからといって、それが不幸とは限りませんしね。
経済成長ばかり追い求める姿勢に疲れてしまった人は、ぜひ本書を読んでみてください。きっと啓蒙されるはずです。
山口周『ビジネスの未来』
物質的な豊かさはすでに達成されているにもかかわらず、「あなたは時代遅れだ。もっとモノを買え」とマーケティングしてくるのが企業なんだよなあ……
コロナ禍の前からすでに世界のGDPは低下トレンドだったし、もはや高成長なんてないのだと痛感。 pic.twitter.com/AR7DnpO0q2
— タロン@本読み (@shin_taron) December 28, 2020
世界観をつくる 「感性×知性」の仕事術
対談なので、読みやすい。
クリエイティブディレクターとして有名な、水野学さんとの対談本です。
デザインにはわかりやすい「答え」がないので、「答え」があるのが当たり前の学校教育にしばられている人ほど、クリエイティブな才能はなかったりするものです。
でも、現代はクリエイティブの才能がないとまずい時代になっています。
スマホの中では、いまだにiPhoneが人気ですが、ぶっちゃけ、iPhoneだろうがAndroidだろうがGALAXYだろうが、大して見た目にも性能にも差はありませんよね。
では、なぜiPhoneが売れるかというと、やはりスティーブ・ジョブズがつくった「世界観」があるからです。
そしてこの「世界観」は、クリエイティブな才能がないと作れないのです。
外資系コンサルが教えるプロジェクトマネジメント
著者は経験豊富な外資系コンサルなので、説得力がありすぎる。
著者はコンサルタントを10年以上続けているそうですが、一度もプロジェクトを炎上させたことがないそうです。
なぜ一度もプロジェクトを炎上させたことがないのか?
そのカラクリについて、著者はたった一言、
確実に成功が見込めるプロジェクトだけをやってきた。
──と書いています。
結局のところ、失敗するプロジェクトを成功に導く、なんてキリストみたいな神がかりなことはめったにできません。
著者は、成功しそうなプロジェクトをかぎ分ける鋭い嗅覚を持っているようです。
今の僕みたいな下っ端の末端社員にとっては、プロジェクトマネジメントなんて不要なスキルかもしれませんが、将来、必要になるかも……。ということで非常に有益な本でした。
仮想空間シフト
二人ともITに強いのでおもしろく、コロナ前の「みんな会社に集まる働き方」を古い神話と言って切り捨ててるのが最高。
「フォートナイト」や「スプラトゥーン」などのオンラインゲームでは、知らない人たちと1ゲームごとに誰と組んで、誰と戦うかがシャッフルされて目的達成を競う。
1ゲームごとにメンバーが変わるので、そのたびに「自分はリーダーをするべきか、それとも縁の下の力持ちの役になるべきか」と小さい子供たちが仮想空間上で人間関係の結び方を学んでいる。
狭い会社の中の固定された人間関係だけで苦しんでる俺たち大人よりも、仮想空間で遊ぶ子供たちのほうがよほど社会性が高いよねって話が衝撃だった。
これからの子供たちは在宅で仮想空間上で仕事をするようになり、リアル空間でわざわざ通勤電車に揺られて消耗してるのは仮想空間についていけない哀れな大人だけ、って未来が来るのかもしれない。
中級者向け
世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?
とりあえず本書だけは絶対に読んでおくべき。
ほとんどの社会人が衝撃を受ける内容です。
本書を一言で要約すると、こうなります。
今までは、与えられた課題に適切な答えを出すのがエリートだと思われていました。
ですが、今の時代はもう答えがあふれている(=コモディティー化している)ので、適切な答えを出す能力はもはや不要になりつつあります。
新しいエリートに求められるのは、答えを出す能力よりも、問題を見つけ出す能力です。
そして、問題を見つけ出す能力を鍛えるには、「美意識とアート」が大事になってくるということです。
文章の切れ味が鋭すぎて、初めて読んだ時はすごい衝撃でした。
もはや、本書そのものが一つのアートになっているくらいです。
山口周さんを読むのなら、とりあえずはこの1冊は必須です。
山口周『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 』
さすがベストセラー本。おもしろかった。
意外にもMBA(経営学修士)の出願数は減少傾向らしく、MFA(芸術学修士)が注目されはじめているとのこと。
すぐ役に立つ知識ばかりを追い求めるのはよくないですね。https://t.co/LhTr1w3pne— タロン@本読み (@shin_taron) August 19, 2021
ニュータイプの時代
働き方に悩む人は必読。
本書のメッセージを要約すると、こうなります。
(左がオールドタイプ、右がニュータイプです)
・「予測する」→「構想する」
・「KPIで管理する」→「意味を与える」
・「生産性を上げる」→「遊びを盛り込む」
・「ルールに従う」→「自らの道徳観に従う」
・「一つの組織に留まる」→「組織間を越境する」
・「綿密に計画し実行する」→「とりあえず試す」
・「奪い、独占する」→「与え、共有する」
・「経験に頼る」→「学習能力に頼る」
特に、「独占する」のではなく、「共有する」のがニュータイプの人材なんだ、という主張はおもしろかったです。
言われてみれば、カーシェアリング・ルームシェアリングなど、現代は独占するのはなく「共有する」サービスがたくさん登場しています。
僕は「共有する」というのは、失敗しやすいと思っていました。
ですが、実際にカーシェアリングやルームシェアリングなどは、コモンズの悲劇になることなく、安定して運用されています。
なぜ、実際には「コモンズの悲劇」は起こらないのか?
この理屈が本書では書かれているのですが、それが納得でした。
これからは、独占ではなく共有の時代ですね。
世界で最もイノベーティブな組織の作り方
組織論を知らない人でも読める。
「日本人には創造性がない」
──とはよく言われます、本当でしょうか?
しかし、2001年以降の自然科学分野において最高の栄養と考えられているノーベル賞(物理学、化学、医学生理学)の日本の受賞数を見ると、アメリカに次ぐ2位です。
それに、アニメ分野でも、『クレヨンしんちゃん』や『ドラえもん』、最近だと『進撃の巨人』や『鬼滅の刃』は海外でも超人気です。
なので、日本人にはむしろ、イノベーティブな才能があるはずなのです。
なのに、
──この疑問に答えてくれるのが本書です。
「日本人の権力格差の大きさが、自由な議論を妨げている」など、一度でも会社で働いたことのある人は、共感できる内容です。
ちなみに、本書の後半で、東浩紀『一般意志2.0』への批判があって、これがわりと納得だったのでのせておきますね。
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