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カズオイシグロおすすめランキングベスト8【日本の記憶を描くノーベル文学賞作家】

カズオイシグロ おすすめ ランキング

カズオ・イシグロといえば、2017年のノーベル文学賞受賞者です。

はい、偉い人〜

 
生まれは日本の長崎ですが、6歳のころにイギリスに渡っているので、カズオイシグロの中にある日本の存在は薄いです。
 
 
ノーベル文学賞受賞のときにはあたかも日本人であるかのような報道でしたが、カズオイシグロは国籍も含めて完全にイギリス人です。
 
 
カズオイシグロの小説には日本がよく出てきますが、あくまでカズオイシグロの頭の中で美化されている感じの日本なので、注意です。
 
 
といっても、やはりカズオイシグロの小説はおもしろいです。
 
以下、カズオイシグロのおすすめランキングを作りましたので、ぜひどうぞ。
作品数が少ないので、コンプリートしやすいですよ。

タップできるもくじ

1.カズオイシグロおすすめランキングベスト8

では、紹介していきます。

1位 忘れられた巨人

 
6世紀ごろのブリテン島(現在のイギリス)が舞台の、ファンタジーです。

今まで現実のストーリーばかり書いてきたカズオイシグロですが、これは初めてのファンタジー作品。

 
わりとキライな人も多いのですが、僕はどんぴしゃハマりました。
 
 
 
ブリテン島では、ついさっきの記憶さえ忘れてしまうという怪奇現象が起こっていました。
 
とある老夫婦が息子を迎えに行くために旅に出るのですが、この夫婦の描写がほんとに奇妙で……
あまりにも夫婦仲が良すぎるのです。

 
そりゃ、結婚後数十年たってもラブラブな人もいるでしょうけど、そんな夫婦なんて絶滅危惧種です。
 
読者はまずここで、「なんかおかしいな……」と怪しんでしまうのです。
 
 
読み進めていくと、やはり夫婦仲が良すぎることが伏線だと分かります。
  
 
人の記憶を消し去る霧の正体はネタバレになるので言いませんが、カズオイシグロの今まで通りの「記憶と回想」のテーマはしっかりとこの作品でも継続されています。
 

ファンタジーだからと言って、この作品を避けている人はマジでもったいない!

 
最終的に霧を晴らすべきなのかどうなのか、という流れになっていくのですが、これもむずかしい。
霧が晴れて人々の記憶が戻れば、過去の戦争の憎しみもよみがえってしまう。
 
記憶を戻さないままのほうが、平和なのではないか?

━━という葛藤が本書のテーマでもあります。
 
 
タイトルの『忘れられた巨人』とは、忘却されてしまった歴史の記憶のメタファーでもあるわけですね。
 
 
もう少し話を広げると、記憶というのは歴史認識のことでもあります。
 
日本・中国・韓国の仲が悪いのは、どれかの国が過去の歴史を都合よく忘れているからかもしれません。
 
僕らは『忘れられた巨人』を起こすべきなのでしょうか?
 
 
個人的には、『わたしを離さないで』を上回る傑作だと思っています。

2位 遠い山なみの光

 
日本を捨ててイギリスに行った女が、日本を回想するストーリー。
 
舞台のほとんどは日本です。
 
 
日本を捨ててイギリスに行った女と、アメリカ人との結婚に将来をかける女が出てくるのですが、彼女らの会話がすれ違いまくってておもしろいです。
 
 
実はこの小説の元々の日本語のタイトルは、『女たちの遠い夏』です。

 

メモ
これは、古い翻訳本なのでわざわざ読む必要はありません。

まさに女たちが遠い夏を思い出す話なんですよ。
 
能面をかぶった女性が表紙に描かれていますが、これも、本音を隠す女のメタファーかもしれませんね。

正直、日本の描写よりも、登場人物の女たちの会話のほうがよほど強く印象に残ります。
 
 
あと、長崎の平和公園の描写が出てくるので、そのシーンを読むと、カズオイシグロの原爆に対する考え方も少しわかります。
 
作中では、長崎の平和祈念像のシーンも出てきます。

 

さて、カズオイシグロは、原爆についてどう描いたのでしょう?

3位 わたしを離さないで

 
カズオ・イシグロのいちばんの有名作品。
 
有名になりすぎて、「クローン」や「臓器移植」の話が当たり前のようにネタバレされている、ちょっと残念な作品でもあります。
 
 
といっても、これはミステリー小説ではないので、ネタバレされてつまらなくなるような小説ではありません。
 
 
1996年に誕生した哺乳類初のクローン羊ドリーが、『わたしを離さないで』の執筆のきっかけとなったそうです。
 

クローン羊ドリー
Wikipediaより


 
人間がどこまで生命をいじくってよいのか

━━という議論は、クローン羊ドリーの誕生をきっかけに爆発し、今でもずーーーっと続いています。
 
 
答えのない問題ですが、カズオイシグロは「答え」らしきものを、この作品に書いています。
 
僕は、初めて読んだとき、
ああ、ノーベル賞作家は、こうやって答えを導いていくんだ……。

━━と、感動しすぎて、茫然としました。
 
 
おそらく、今後数十年間続くであろうクローン論争のタネ本として読書界に残り続ける本なので、これは教養として読んでおくべき本です。

4位 日の名残り

 
イギリスの執事が主人公のストーリー。
 
 
名家の主人に忠誠を誓い続ける執事ですが、彼はびっくりするくらいの鈍感じじいです。
 
 
実はある女性から恋心を抱かれていたのですが、それすらも気づかない(フリをする)という石みたいな鈍感さなのです。
 
 
実はこの執事、いわゆる「信頼できない語り手」ってやつです。

メモ
「信頼できない語り手」とは、ミステリー小説のテクニックです。
 
「語り手が、実はウソをついていました」という、どんでん返しテクニックのことですね。

この小説でも、主人公の執事の語ることは、ぜんぜん信頼できません。
 
自分が仕えていた主人がクズ野郎だったことをどうしても認められず、自分の記憶をねじ曲げてしまっているわけです。
 
 
いかに記憶が変形可能なものか、歴史がいかにあやふやなものなのかを痛感させてくれる小説です。
 
今や失われた大英帝国の過去の栄光をえがく、イギリスの歴史小説でもあります。

 
ところで、主人公の執事が、作中でこんな差別的?なことを言っていました。

執事はイギリスにしかおらず、ほかの国にいるのは、名称はどうであれ単なる召使だ。大陸の人々が執事になれないのは、人種的に、イギリス民族ほど感情の抑制がきかないからです。

 
━━まあたしかに、イギリスは「ジェントルマンの国」というイメージが強いですが、さすがにこれは言い過ぎでは……?
 
まあ、1930年代くらいであれば、これくらいの差別的認識は、むしろふつうだったのかもしれませんね。

5位 わたしたちが孤児だったころ

 
上海の租界で謎の失踪をとげた両親を、主人公が探偵になって探すというストーリーです。

「両親の行方を探す」

──という明確な目的があるので、探偵小説的に読めておもしろいです。
 
第二次世界大戦中のストーリーなので、その頃の上海はイギリス人・日本人・中国人などが入り乱れていて、超危険な街です。
 
 
主人公はイギリス人ですが、「イギリスには帰りたくない」
 
そして日本人の友達のアキラも「日本には帰りたくない」と言っています。

 
そんな二人にとって、上海は中立地帯のような役目なのです。
 
 
日本人とイギリス人の奇妙な絆が描かれているのが、おもしろいです。
 
僕が好きなのは、
戦場のど真ん中で、アキラが主人公に「ト・モ・ダ・チ」という日本語を教えるシーン。
 

このシーンは、胸熱でした。映画化希望!

6位 浮世の画家

 
主人公の画家が、とある失敗をしたために苦悩するストーリーです。
 
その失敗とは、

第二次大戦中に、旧日本政府を賛美する絵を描いてしまったことです。

 
日本敗戦後は、180度転換して急に民主主義の国になったわけですから、そんな絵を描いてしまった主人公の画家としての名声は地に落ちたわけです。
 
日本敗戦後の価値転換に振り回された、かわいそうな画家の話ですね。

 
日本が舞台ですが、あくまで「カズオイシグロが過去に数年間住んでいただけの、記憶の中の日本」なので、「こんなキレイな日本、ねーだろ」と思ってしまう人もいるかもしれませんね。

7位 夜想曲集

 
カズオイシグロの唯一の短編集です。
 
売れないサックス奏者や芽の出ないミュージシャン、老歌手など、夢追いかけ中の音楽家ばかりが主人公です。
 

カズオイシグロも、元々はミュージシャン志望だったそうなので、その破れた夢が反映されているのかも。

 
カズオイシグロの作品の中では、いちばんコメディーっぽいです。
 
音楽を売り出したいあまり、整形手術をして顔を変えようとしたりするなど、ウディ・アレン的なおもしろい描写が多いです。
 
 
ただ……。
 
「短編はそれほどうまくないのかも……。」と僕は感じてしまいました。
 
やはり、カズオイシグロは長編がうまい作家ですね。

8位 充たされざる者

 
カズオイシグロのいちばんの問題作です。
 
 
文化的危機に瀕している街を救うために、とあるピアニストがやってくるのですが、ストーリーがほんと意味不明。
 
 
なぜか街の人たちがやたらと主人公に「お願い事」をしてくるのですが、結局その「お願い事」に時間をとられて、肝心の「街を救う」という目的が果たせない、というカフカエスクな物語なのです。
 
 
ちょっと上までいくだけのエレベーターに何時間も乗っていたり、何時間もかけてタクシーで移動したはずなのに、また元のホテルに戻っていたりと、

時空間が伸び縮みしていて、まるで悪夢の中にいるようです。

 
これとよく似た小説に、『ドグラ・マグラ』があります。

 
この小説も、時空間がおかしくなっていて、ストーリーさえ追えない意味不明の小説として有名です。
 

それにしても、なんでこんな意味不明の小説をカズオイシグロは書いたんでしょうかねえ……。

 
一説では、「忙しくなって小説を書く時間がなくなったカズオイシグロの焦りが生んだ怪奇小説」だそうですが、真相は謎。
 
 
とてもじゃないけど、友達にはおすすめできない作品です。

 

最新作

カズオ・イシグロの最新作も紹介しておきます。
 

クララとお日さま

 
ノーベル文学賞受賞後の第一作。
 
 
クララという少女型ロボットと、病気がちの人間の少女とのつながりを通して、クララの変化を描く長編です。
 
 
こちらに関しては、書評を書いているので参考にしてください。

あわせて読みたい
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2.カズオイシグロを知るためのおすすめ解説本

カズオイシグロを知るためのおすすめ解説本も紹介しておきます。

カズオ・イシグロ読本 その深淵を暴く

 
カズオイシグロの全作品のあらすじと解釈がのっているので、おすすめ。
 
カズオイシグロの作品は日本版のWikipediaがなかったりするので、あらすじを知りたい人におすすめ。
 

カズオ・イシグロ入門

 
カズオイシグロを0から知りたい人におすすめ。
 
カズオイシグロは日本人なのかイギリス人なのか、日本にはどれくらい住んでいたのか?
 
など、基本的なことを知りたい人向けです。
 

特急二十世紀の夜と、いくつかの小さなブレークスルー ノーベル文学賞受賞記念講演

 
カズオイシグロがノーベル文学賞を受賞した時のスピーチの全文が、英語と日本語でのっています。
 
YouTubeに音声もあがっているので、英語のリスニング勉強にも最適ですね。
 

ノーベル文学賞作家の英文ですが、けっこうすらすら読めて楽しいですよ。

3.カズオイシグロの特徴は、小津安二郎にある

小津安二郎という有名な日本人の映画監督がいます。
 
『東京物語』などが有名ですが、彼の映画の撮り方は本当に美しいです。
 
彼は、俳優を正面のロー・アングルから撮ることで有名です。
 

 
カズオイシグロも、小津安二郎に影響を受けたらしく、カズオイシグロの小説の静かな雰囲気は、小津安二郎の映画にそっくりです。
 
カズオイシグロ好きな人はハマると思いますので、小津安二郎の映画もおすすめです。
 

 

4.三島由紀夫との関係

カズオイシグロは、村上春樹や大江健三郎などには敬意を示していますが、同じく日本作家である三島由紀夫には、否定的です。
 
 
どうも、三島由紀夫の政治思想や生き方に「共感できない」そうです。
 
カズオイシグロと三島由紀夫は、あまり相性がよくないようですね。

5.カズオイシグロを英語で読む難易度

カズオイシグロは基本的に、

英語でも読みやすいです。

 
難しい言葉がほぼ使われていないので、日本語はもちろん、英語でもけっこうスラスラ読めます。
 
おすすめはやはり、『わたしを離さないで』ですね。

 
世界中で読まれている名作ですし、これは英語版も合わせて読んでおきたい。
 
 
逆に、今回のランキングで1位だった『忘れられた巨人』の英語版はおすすめできません。
 
時代が6世紀のイギリスのファンタジーですし、「悪鬼」「鞍」「手綱」など、むずかしい英語がたくさん出てくるので、相当むずいです。

おわりに

カズオイシグロは作品数が少ないので、ちょっとがんばれば全作品を読めます。
 
 
日本を描いたノーベル文学賞作家って少ないですし、やはり日本人としては読んでおきたいところですね。
 
 
まあ、残念ながら、カズオイシグロの記憶の中にある日本はあくまで「昔の日本」なので、カズオイシグロが現代の日本を描くことはなさそうです。
 

現代の日本を描いてくれる作家としては、これからの若い作家に期待しましょう。

 
 
では、最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
 

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